B 月はこうして捕獲された
 
有力な「巨大衝突説」が完璧でなければ、再び「捕獲説」にもどることも考えなくてはならない。           
先に述べたように、月が地球に接近して、地球の周りを回るようになるためには、月の運動エネルギーに対して、とてつもなく大きなブレーキをかける働きがなければならない。では何がブレーキの働きになったのであろうか。    
月はブレーキのきかない無人自動車のようなものであるから、衝突させることによってブレーキをかけるしかない。           
つまり、月が地球に接近、大衝突しながら破壊されずに、そのまま地球の周りを回る衛星となったのである。これを名づけて「衝突捕獲説」という。
       
  
     
月が地球に衝突、捕獲された想像アニメ
月の平均密度は3.341g/cm3で、地球の5.52g/cm3よりもうんと軽く、火星の3.94g/cmに近い天体である。また、月の質量は地球の81分の1であるが、ほかの衛星と比べると母惑星との比率がきわめて大き過ぎるので、月は地球よりはるかに離れた距離で誕生した「惑星」である可能性が高い。       

月は他の惑星と同じように太陽の周りを公転していたのであるが、あまりに長い楕円軌道を描いていたために、地球の公転軌道に入り込んで、地球に接近したことが何度なくあった。その全ては引力の加速度によって地球のすぐ外側を猛スピードで通過したのである。    

しかし、月はとうとう地球に命中して、ゴーンと大衝突を起こしたが、奇跡的に破壊されずに宇宙空間へ跳ね返って、そのまま地球の引力に捕らえられて、地球の周りを回る衛星となったのである。

 
  
                
地球に衝突したあとにできた巨大な  
「オリエンタル盆地」   
(「地球・宇宙・そして人間」松井孝典著より)
天体(月)が太陽の周りを公転するときは正のエネルギーをもっている。月が地球の周りを回るときは負のエネルギーである。  
正から負へのエネルギー転換は、衝突することによってのみ可能になる。     
ものを地上に落としてみると、ゴツンと少ししか跳ね返らないのと同じことである。      

月には直径約1300キロにおよぶ巨大なクレーターがある。「オリエンタル盆地(東の海)」と呼ばれているもので、巨大いん石が衝突してできた跡といわれているが、これがまさしく地球に大衝突してできた跡であろう。     

一方の地球ではどうしたのかというと、月の大衝突がもたらしたショックで、表面の地殻に割れ目ができて、火山活動が活発になり、のちに広大な太平洋をつくったのである。また、全地球的に大規模な火山活動で空中に大量放出されたガス・蒸気がのちに原始大気となって、水と緑と生命が豊かな地球をつくるもとになったのである。

 
  
             
月が「丈夫な鋼鉄の天体」を思わせる地震記録  

(「地球・宇宙・そして人間」松井孝典著より)

月は地球に大衝突したが、奇跡的に破壊されないですんだ。ではなぜ月は破壊されなかったのか。先に述べたように、月の平均密度は3.341g/cm3で、岩石とほぼ等しく、鉄の固まりよりも軽い天体である。 にもかかわらず破壊されなかったのはどういうわけであろうか。    

1969年、月面探査のアポロ12号によって、史上初めて月面での人工地震の実験が試みられた。要らなくなった着陸船を月面に落下、衝突させて人工的に地(月)震を起こしたのであるが、その観測データでは、驚くべきことに地(月)震波が1時間ほど続いていたのである。    
続く13号・14号・15号による実験でも3時間以上も揺れ続いて、科学者たちを驚かせた。地(月)震が長く続く原因がいろいろ研究されているが、左図をみてもわかるように、この振動のしかたはちょうど寺の鐘を鳴らすときの振動とそっくりなのである。    

月は地球から潮汐力を受けるので、ある程度月のかたちが歪むはずであるが、実際はほとんど完全な球体といえるほど、歪んでいない。つまり、月は軽い天体でありながら想像以上に丈夫な鋼鉄の天体であったから、破壊を免れたというわけである。    
月の内部構造を探るには、さらにくわしい地(月)震波の観測データの解析が必要であるが、今のところまだよくわかっていない部分が多い。将来の観測が待たれるのである。 

 
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