A 「捕獲説」と「巨大衝突説」
 
先にあげた「分裂説」と「双子集積説」は除外していいかもしれないが、「捕獲説」と「巨大衝突説」について、もう少しくわしく説明してみよう。 
 
 
     
なぜ「捕獲説」に人気がないのか   

月が地球に接近した場合は、地球のすぐそばを月が通り過ぎてしまうか、月が地球に衝突してしまうことがよくわかっているので、月が地球の引力につかまって捕獲されることはあり得ないのである。   

大きい岩石を高いところから地上へ落下させてみると、ぐんぐん加速度が大きくなって、地上に激突して岩石が粉々に破壊されることはだれでもわかることである。   

月が地球に接近すれば、落下するのと同じように加速度が大きくなるから、地球の引力を振り切って通り過ぎてしまうか、さもなくば地球に衝突してしまうわけである。   

月が地球に接近して、地球の周りを回るようになるためには、月の運動エネルギーに対して、とてつもなく大きなブレーキをかける働きがなければならない。何がブレーキの働きになったのか、力学的に証明しなければダメなわけである。  
したがって、この「捕獲説」を支持する科学者はほとんどいない。  

自転車やオートバイ・自動車も直進のときはスピードがとても速いが、カーブを曲がるときはブレーキを踏んで、十分にスピードを落とさないといけないと同じことである。

 
 
    
有力な「巨大衝突説」も完璧でない  

現在もっとも有力な「巨大衝突説(ジャイアントインパクト説とも呼ばれる)」については、 巨大衝突によって引きはがされた地球のマントル物質が月の原料になったと考えると、  
(a) 月と地球の酸素同位体組成はほとんど同じ  
(b) 月の親鉄元素の存在度は地球のマントルとよく似ている  
(c) 月には大きな核はない  
(d) 月にはナトリウムやカリウムなどの揮発性元素が少ない  
(e) 初期の月には高温のマグマオーシャンがあった  
(f) 初期の地球−月系は大きな角運動量を持っていた  
など、月がもっている性質をうまく説明できる。  

しかし、この「巨大衝突説」もよいことづくめではなく、コンピュータで衝突の様子をシミュレートしてみると、実際に宇宙空間に飛び散って月を作るのは地球からの物質ではなく、衝突してきたほうの天体の物質の方が多いという結果が出てしまった。  
これではもともとの地球のマントルから月を作ろうという前提が崩れてしまい、また最近の研究では先に挙げた(a)から(f)の特徴自体にもいくつか問題があるのではないか、との指摘もなされている。  
「巨大衝突説」も有力でありながら、完璧というわけでない結論になっている。

 
HOME目次前ページ次ページ
inserted by FC2 system