金大機器で水星探査  
「未知の惑星」
 電磁波を観測
八木谷教授ら開発、2014年打ち上げ

 金大理工研究域電波情報工学研究室(八木谷聡教授)は、日欧共同の水星探査計画「ベピ・コロンボ」に参加する。29日までに、探査衛星の搭載機器を開発した。2014年にフランスの「アリアン5型ロケット」で打ち上げる予定。世界初となる水星周辺の電磁波観測を行う計画で、金大発の技術を生かし、これまで直接観測がほとんどできなかった未知の惑星、水星の実態に迫る。  



水星軌道に浮かぶ水星磁気圏探査機のイメージ図
 (JAXA提供)

 ベピ・コロンボ計画は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)・宇宙科学研究本部と欧州宇宙機関(ESA)が共同で取り組む国際プロジェクト。二つの衛星を水星の周回軌道に乗せ、磁場と磁気圏、内部や表層を初めて総合的に観測し、全容解明を目指す。

 同研究室が関発した機器は、同時に打ち上げられる二つの衛星のうち、水星周辺の宇宙空間の状態を調べる「水星磁気圏探査機」に搭載される。

 同研究室は、プラズマ(電子やイオン)の濃淡や動きにより発生する電磁波を測る「プラズマ波動観測装置」の開発に参加。このうち、磁界測定用センサー2本を製作した。

 センサーは縦、横各1.5センチ、高さ10センチの棒状で、1本当たり90グラム。磁石の性質を持つ合金を入れたコイルをアルミニウムで覆った構造で、0.1ヘルツ〜20キロヘルツの低周波帯を観測するという。

 装置のセンサーは、金大の2本と仏プラズマ物理研究所が製作した1本を組み合わせ、高性能な計測を実現する。

 水星の太陽光強度は、最大で地球の11倍という灼熱の環境となる。

 同研究室が開発したセンサーは、耐熱性を持つプラスチックで覆った上に断熱材をかぶせ、内部を200度以下に保つよう設計、過酷な条件にも耐えられる。衛星本体から5メートル離れたマストの先に取り付け、衛星に搭載された機器の影響を受けないようにした。

 太陽系で磁場を持つ惑星は、地球以外では水星だけで、「兄弟星」とも言われる。今回の探査が成功すれば、惑星の磁場や磁気圏に関する研究の進展が期待される。内部や表面の探査結果も合わせ、地球と同じような物質で構成される惑星の起源や太陽系形成の解明にもつながる可能性があるという。

 実際に打ち上げられる金大のセンサーは1月にも完成する予定で、宇宙空間で正常に作動するかを確かめる試験を繰り返す。

 ロケットの打ち上げ後、水星に到着するのは6年後になる。周回軌道に入ってからは1〜2年観測を継続する計画で、八木谷教授は「成功すればさまざまな研究に進展をもたらす大きな成果となる」としている。

    

磁界センサーの地上試験用モデル

水星
 太陽に最も近く、太陽系で最小の惑星で、地球と同様に磁場と磁気圏がある。太陽から受ける膨大な熱や電磁波による通信障害などで探査が難しく、内部構造や磁場、磁気圏の成り立ちなど、多くは謎に包まれている。1974、75年に米航空宇宙局(NASA)の水星探査機「マリナー10号」が初めて水星に接近。2008年に同「メッセンジャー」が約200キロまで最接近し、11年3月に水星の周回軌道に乗る予定だが、探査範囲は北半球に限られる。


<平成22年12月30日付、北國新聞>

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