米火星探査車「スピリット」が撮影した火星のパノラマ写真。数枚の写真の合成画像のためスピリット(手前)の形はゆがんで見えている
(NASA提供・共同)
 
 
NASA”精神”復活
火星に「ホールインワン」 探査車軟着陸、管制室、歓喜に沸く 
  
【パサデナ(米カリフォルニア州)4日共同=井田徹治】「パリから東京にホールインワンしたようなもの。信じ難いほどの成果だ」。米航空宇宙局(NASA)のオキーフ局長は3日(日本時間4日)、無人探査車「スピリット」の火星着陸を誇らしげに宣言した。 

 スピリットは4億8700万キロの旅を終え、赤い惑星の大気圏に時速1万9000キロの高速で突入。専門家が「地獄のようなもの」と呼ぶ、1400度を超す高温と接地時の激しい衝撃に耐えた。 
 着地から数分間の沈黙の後、信号が再び届いた瞬間、NASAジェット推進研究所の管制室に、拍手と歓喜の声があふれた。両方のこぶしを高々と突き上げる担当者。ジャンプしながら隣の人と抱き合う職員や、誰彼構わず握手を交わす職員も。 
 計画担当者の中には、1999年に失敗した探査機の開発に携わった人も多い。昨年は7人の宇宙飛行士の命を失ったスペースシャトル「コロンビア」の事故がNASAに暗い影を落としていただけに、関係者の喜びはひとしおだ。 
 約40分後、研究所内で開かれた記者会見で、オキーフ局長は満面に笑みをたたえ「われわれは火星に戻った」。壇上の5人のプロジェクト関係者にシャンパンを振る舞う、異例の会見となった。 
 スピリットはその後、火星の荒涼とした大地の写真を地球に送信することにも成功。画像がスクリーンに表れると、管制室には、さらに大きな歓声がわき起こった。 
   

   
3日、NASAジェット推進研究所の管制室で、無人火星探査車「スピリット」からの
火星着陸を知らせる信号に喜ぶNASAのオキーフ局長(AP=共同)
           
    
  
米技術力の高さ実証
   
(解説)火星大気圏を高速で飛行する際の高温に耐え、パラシュートの展開、耐熱装置の切り難し、そして着陸直前のロケットの逆噴射などを秒刻みで自動的に進める。米航空宇宙局(NASA)の火星探査車「スピリット」の着陸手順は、わずかな狂いも許されない、極めて複雑かつ精緻なものだった。 
 前日にはすい星探査機「スターダスト」が、すい星の試料採取に成功。さらに、日本や欧州の火星探査計画が失敗に終わった直後だけに、今回の成功はNASAの技術力の高さをあらためて印象づけた。 
 着陸には、火星を周回している探査機のデータも大きな役割を果たしており、担当者は「着陸手順は教科書通りに順調だった。長年の経験と総合力がものをいった」と胸を張った。 
 スピリットと、後続する姉妹機オポチュニティーの特徴は、画像撮影が中心だった一九九七年のマーズパスファインダーと違い、多様な観測機器を駆使した火星の地質研究を行えること。生命存在の可能性につながる、過去に水が存在した証拠の発見に、各国の研究者の期待が高まっている。 
 難関だった着陸を乗り越えたことで、NASAにとっての次のハードルは、計画通りの観測を行うことができるかどうかになる。(パサデナ=米カリフォルニア州=4日共同) 
   
<平成16年1月5日付、北国新聞>
        
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